Philip K Dickの「高い城の男」 高い城とは何を示唆しているんだ?

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 去年から第何次だか判らないオレのPhilip K Dickブームが巻き起こっていて、この1年で10冊以上彼の本を読みまくっている。没後40年近く経つと言うのに、ここ数年何冊もの未邦訳本や新訳本が出版されている。そんな『新作』を読んでいると、そういやあの話はどうだったっけ? みたいな事でついつい昔1度読んだっきりの作品まで読み返してしいる。それにしても没後35年に新刊が出版される作家というのも凄いものだ。

 つい先日も20代半ばに読んだっきりの「高い城の男」を読み直した。この「高い城の男」はアメリカではこの期に及んでTVドラマ化されていて、アメリカドラマお得意のシーズンモノになっているようだ。現在シーズン2まで放送されているとか。ちょっと見たい気がする。 
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 「高い城の男」はPhilの代表作のひとつといっていい作品で、話の展開、プロットの破綻の無さ(といってそのプロットの破綻なんかPhilのファンは全く気にしていないのだが)などから彼の最高傑作とも云われている。
 物語は第二次世界大戦で日本とドイツが連合国に勝利したという架空のアメリカが舞台にすすむ。数多くの登場人物が出てくるのだが、それぞれの人物が一堂に会する事は最後までない。だけどもお互い見ず知らずの個々人が話しの中で何処かで何かのつながりがあって事態が進むいう、なかなかこった構成の話になっている。お互いがお互いを知らないのに、各人の行動が有機的にひとつの物語を紡いで行く。

高い城の男シーズン1のトレーラー
なんだか面白そうじゃないの。

 物語はアメリカと日本の両陣営に分断されて統治されたアメリカの人々の生活が描かれている。そんな抑圧されたアメリカ人の間でアングラ小説として秘かに読まれている小説が「イナゴ身重く横たわる」。なんとこの作中作品は、アメリカ側が日本とドイツに対して勝利したという架空の世界を描いた作品なのだ。「高い城の男という」架空の世界で、架空の(いや本当の)世界の小説がベストセラーになっているというややこしい入れ子構造、もうこの設定で頭くらくらしてくる。こんな倒錯した作品の構成を考えつくのは、Philならではだと思う。

 作品の中で重要な役割をしているのが「易経」。日本に占領された地域のアメリカでは、日本からもたらされた易経で人々がこれからの出来事を占うなんてシーンが描かれている。占領者が被占領地に何かを押し付けるわけだ。実際の日本の場合はアメリカの軽薄な映画やTV、コカコーラに代表される毒物。それらを私たちは日本の文化より優れたものとして崇めてきた訳だよ、この戦後。そう考えたら中国伝来とはいえ、易経をアメリカにもたらすなんて、この架空の世界の日本の統治は決して悪いものとは言えないんじゃないかな。

 SFといっても色々なジャンルがあるわけで、宇宙人や飛行船が出てくるものだけがSFじゃない。現実と似てはいるけど、何か違う世界を描くというのも立派なSF作品。Philの作品で一番だとオレは思っている「A scanar darkly」(邦題:暗闇のスキャナー。もしくはスキャナー・ダークリー)なんかも、覆面麻薬捜査官が破滅しながら、麻薬の供給源を突き止めるという話だったりして、けっして科学的なSFじゃない。「Valis」に至っては宗教小説だし。でも決して主流小説じゃないからSFなんだろう。

 Philの作品のプロットではお馴染のパターンナんだけども、この「高い城の男」も物語の最後の最後で、たった一文で、それまで展開してきた話を全てぶち壊しにしてひっくり返してしまう。Philファンとしては、まさにこれこそPhilip K Dickの醍醐味。もうカタルシスを覚えるね。

(もしこの作品を読もうと思っている人は、ここから下は読まない方が良いかも。作品のオチを書いています。といって、オチを知っていてもこの作品は充分に楽しめるのだが)

 30年ぶりぐらいに読み直したこの作品だけども、当時のオレはまだごく数作程度しかPhilの作品を読んでいなかった初心者だった。正直、この小説はあんまり面白い話じゃなかったよなというのが当時の素直な感想。だから長らく読み返していなかった。ヒューゴ賞を受賞しているこの作品だけども、単なる架空の世界を描くつまらない小説だと思っていた。たかだか賞なんて、出版社が本を売るための宣伝に過ぎない。売るための話題作り、ステルスマーケットじゃないか、と。
 ところか今回、読み進めるうちにどんどん物語の面白さ、構成の面白さに夢中になった。そしてカタルシスがやってきた。
 物語の最後で、作中に登場する「イナゴ身重く横たわる」の作者が易経で作品について占いをたてる。そしてそこに出た卦が語るのは、その本に書かれた内容こそが現実だと告げる。なんと戦争に負けたのはアメリカじゃなく、日本とドイツだと。じゃあ、この作品の世界はなんなんだ? 
 Philの作品は他にも、最後の最後で全てがひっくり返るなんて事が多くて、彼のファンはこんどはどんなちゃぶ台返しをしてくれるのだろうと期待しながら読んでいるのだ。それにしても、この「高い城の男」のどんでん返しを読んだ時は、あまりの見事さに拍手喝采してしまったよ。

 「イナゴ身重く横たわる」の作者はその邸宅から高い城の男と呼ばれているが、実際に住んでいるのはちょっと広い程度の家だった。高くもなく城でもない。作品のタイトルにもなっているのに、これはいったいPhilは何を言おうとしているのだろう。
 この謎をオレ「広い庭の男」が考え込むのであった。こんな些細な事が気になってしまうのもファンて奴で、これも小説を楽しむ醍醐味なのだと思う。

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by kararachan | 2017-08-18 10:25 | 書籍 | Trackback | Comments(0)
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