映画「Control」Ian CurtisがControlしたかったもの 

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 今年になってから、Deborah Curtisの書いた「Touching from a distance」と云う本を読んでいる。DeborahはJoy DivisionのボーカリストIan Curtisの妻だ。そのDeborahがIanとの出会いからJoy Division結成、そしてバンドの成功とIanの自殺までをつづった伝記本だ。妻として常にIanのそばで彼を見続けた人物による、非常に生々しい、なんだかページから血が流れてきそうな伝記本だ。Joy Divisionのファンとして、あの音楽を深く理解したいというのと、Ianが何を思ってあのような詩を書いたのかを知る手がかりとしてこの本を手に取った。
 Ianが患っていた癲癇。その癲癇の発病とバンドの成功が同時進行して行く。そして、癲癇を抑えるための薬が、Ianの心をバラバラにして行き、そして5月18日の陰鬱な月曜日の原因になったと云うバンドメンバーの証言が、読んでいて痛々しい。常に間近にいたと云うのに、Ianの事を救ってあげられなかった事。Ianの書く詩は抽象的なものでは無く、まさに彼の苦悩だったと云う事をようやっと理解出来たのが彼の死だった。そんなバンドメンバーの後悔が描かれている。

 この「Touching from a distance」をベースに、Joy DivisionとIan Curtisの生涯を描いた「Control」と言う映画がある。監督はAnton Corbijn。オレはこの映画をたまたま偶然知った。You tubeでJoy Divisionの動画を探していると、Ianそっくりの男がJoy Divisionの曲のカバーをしている。それがことごとくFrom Controlと書いてあるので、これは何だろうと? 調べてこの映画にたどり着いた。この映画は2007年に公開されていたのだが、オレにたどり着くまでに10年近くもかかってしまった。こんな伝記映画が公開されていたとは、ついこないだまで全く知らなかったよ。

Transmission / Joy Division

 こうやって映像になってIanの生涯を見せられると(まあ、かなり脚色されているとは思うが)、これまで何について歌っていたのか判らなかった事柄が、なんだかすんなりと頭の中に入ってくる気がする。なんだか交霊会でIanの霊と触れあったような気持ちにさせられた。



 Ianの歌う歌詞の中で使われる「I」と「You」とは何だろう。それらは他でもない自分「I」、そして自分を客観視した「You」何じゃないか。自分の中の2つに別れてしまった部分。公務員として平凡な生活をしていた自分。ロックスターになり一躍注目を浴びるようになってしまった自分。そして平凡な生活を象徴する妻、そしてロッカーとしての自分につきまとうベルギー人の愛人。Ianはその葛藤を、「I」と「you」に託して歌を歌っている。

To the center of the city where all roads meet, waiting for you,
To the depths of the ocean where all hopes sank, searching for you,
I was moving through the silence without motion, waiting for you,
In a room with a window in the corner I found truth.

Joy Division / Shadow play
これはShadow playの最初の部分だが、このyouもIもIan、君そのものを歌っているんだ。


 2つに別れてしまった自分。それを一つにするために、再び1人の自分を取り戻すために彼は死を選んだのではないか。この制御不能なIとYou。だけどもそれをControlする術が1つだけ残されている。それは自らの死。それだけが彼に残された唯一のControl出切る出来事だったのでは無いか。

 単なる性欲に駆られてベルギー女と不倫したのなら、Ianはこうも心が引き裂かれるような苦悩に陥る事はなかったろう。彼は2人の女性をどちらも本当に必要として、愛していて、選びようが無かった。ロックミュージシャンとしての自分にはベルギー女が傍らにいてもらわなければステージに立てなかったのだ。
 そして23歳の一般の男としての自分には、Deborahがいてくれなければ、彼は生きて行けなかったのだ。どちらか一方では生きてゆけなかったんだ、Ianは。どちらか片方では不安定な自分をコントロールする事ができなかったのだ。Deborahとベルギー女、その二人は二つの自分を安定させるためにどちらも必要な存在だったのだ。
 だけどもそのどちらかを選ばなければならなくなった。引き裂かれるような状況に陥った彼は、自分を引き裂く代わりに死をもって自らを1つにした。1人のIan Curtisとして彼は死んで行った。Love will tear us apart. このusとはIanの2面性の事を歌っていたのかも知れない。

 Deborraはこの悲劇をJoy Divisionの始まりから、予感していたのかも知れない。だからIanがロックスターではなく、普通の人になって欲しかった。だから彼がロックスターになって行くに従って、彼から距離を置き、遠くで見守っていたのではないか。

 この映画の最後にAtomosphereが流れる。とても抽象的な詩だ。だけども、この映画を見終わった後では、これから死んで行こうとする自分に向けて書いた詩なのではないかと思うようになった。まるでもう苦しみも何もない平安の境地へと向かう自分へ向けて。


 そしてまた、今年も5月18日がやって来る。

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by kararachan | 2018-05-06 21:43 | 音楽 | Trackback | Comments(0)
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